第23回 「経営はこころと数字」。どちらが欠けても商売にならない。

「経営はこころと数字」。どちらが欠けても商売にならない。

~店を活き活きさせたかったら、これだけは行うべし~

■わずか80坪の1店で年商5,5億円という地域スーパーがあります。
仙台駅からクルマで20~30分の秋保温泉町内にある「さいち」というスーパーです。
特に、このスーパーが売る「おはぎ」が有名なのです。

秋保温泉(あきうおんせん)は、仙台・中心部から少し離れた地域にあります。
ここにあるスーパー「さいち」は上記のような小さな店ですが、よく売っていてこの地域では人気のある店です。

中でも主力の「おはぎ」は平日、1日7~8千個(1個100円で70~80万円)も売るといいます。
(知人・緒方知行氏が発行する経営誌「Value creator」で報じています)
同誌の田口香世編集長によればこの店の人気商品は「総菜」と「おはぎ」で、ついで買いでなく、目的買いの人が多い様です。

この店のお客様は、この「さいち」の「お総菜とおはぎが食べたい人」だと田口女史が述べています。こんな店は大手スーパーも敵いませんね。
「さいち」の専務・佐藤澄子さんはいつもこう言うそうです。
「総菜の“惣”と言う字は“物”と言う字に“心”と書きます。怒りながら作ると不味くなり、笑顔で作ると美味しくなるのです」。
「お総菜は、何をどう作ろうが、最後はこころです」とも言います。

その「こころ」の部分を覗くと~。
例えば「肉じゃが」~。肉とジャガイモを最初から一緒に煮るのではなく、別々に煮て、最後に合わせてこそ、本当に美味しい“肉じゃが”が出来る、というのです。
最初から一緒に煮たら素材それぞれの美味しさが出なくなる。これが「さいち」のこころだそうです。

五目煮も同じです。ダイコン、人参、ゴボウ、里芋など素材をそれぞれ別の鍋で煮て、最後に一緒に盛りつけるから、おいしい五目煮になる様です。
最初から同じ鍋で煮たのでは、それぞれの素材の味が出ない。
この様に、ここまでこだわるからお客様が、わざわざ「さいち」の総菜やおはぎを、買いに来て下さるのだ、と考えているのです。
この揺るがぬ信念が、素晴らしい商いの原点なのです。

素材を別々に煮て、9時の開店に間に合わせる為に、毎朝、3時から総菜作りを始める様です。
この心意気があるから、多くのお客様の共感・感動を呼ぶのですね。

そして、「今日は美味しい総菜が出来た!」と思う時があっても、「いや、まだまだ。これで80点。次こそ100点目指して頑張ろう!」と絶えず次の追求の為に、余白を残した商いをしているようです。

お客様のブログをみますと、こんな記述があります。
「秋保にあるスーパーさいちのおはぎと総菜売場。“さいち”っていう和菓子屋さんかと思ってたらびっくり。
充実した品ぞろえ。群がるお客さん。名だたる全国チェーンのお偉方が見学に来たり、専門誌が特集本まで発刊していたり。そんな有名なお店なんだ。
買ったのは“おはぎ”のいろいろ。2個で210円、3個で315円。
あんこ・ごま・きなこ・ずんだがあって。
まずはあんこ。一番人気の商品です。
ふつ~うのおはぎとは全くの別物。
中のお米がこれまで食べたことないくらい美味しい。
昔、祖母がお祭りの時に作ってくれたおはぎを思い出しました。
もちもちで、ふわふわで、それでいて粒々がしっかりしてて。
あんこも甘すぎず、物足りなくもなく。
やっぱりすごい!」
と書かれています。

総菜、おはぎを主力商品として、地域で健闘するこの店では、
「お客様にもっともっと美味しいモノを食べて欲しい。
わがウチでは手間暇をかけられない家庭が多いから、その家庭に代わって手間暇をかける。これが“さいち”のこころです」
とこの店の澄子専務は言われます。

お総菜を売るこころ。それは売上げを狙うこころでなく、お客様の楽しい食生活を願うこころのようです。
これは、きれいごと、口先ごとではなく本当に地域のお客様の暮らしを思うこころなんです。

お客様も生活が厳しい時代。口先だけのきれい事はキチンと見抜かれます。
心からお客の暮らしを考える店でしか、お客様は買い物をされません。
本音で真剣に取り組むべき時代なのです。

■「オレは数字は嫌いや」という食品店主・熱田さんに計理士さんが聞きました。
「毎日、暑いですな。35度という暑さ~。この35という数字無しに、この暑さをどう表現しますか?」。
考え込んでいた熱田さんは「数字を使わずに言うのは難しいですな」。
難しそうな経営数字も、実はこの35度と同じなんです。

前の項では「商いのこころの話」をしました。この項では「商いの数字の話」をします。
経営、特に商いはお客様の「こころ」の「やりとり」が基本です。
「駆け引き」ではありません。真剣で微妙なやりとりです。
サービスをする側と、される側の「こころの綱引き」かも知れません。
しかし、ここでは「数字」のことを少し考えて戴きます。

「今月の売上げは去年の同月より5%少ない」
「経費を節約して、利益は何とか前年対比プラス2%でした」
「震災その他の影響で、客数は去年より下がるかと思っていたが、客数はなんとか同じで、客単価が5%減でした」
これは食品店主の熱田さんの表現です。
なんと、数字嫌いと言う割りには数字を上手に使っています。数字嫌いと言う先入観が強いのかも知れません。

「数字使いが上手じゃないですか!」というと、
「いやいや、あきませんわ。経営数字と言うたらもっと高度ですやろ」

この会話に出てくる経営数字には、共通の意味がある、と計理士の金田さんは言います。
「去年より」
「○パーセント少ない(多い)」
「前年対比プラス(マイナス)」
「客単価○%減、(○%増)」

この例の様に、
「去年より○パーセント多い、あるいは少ない」
「前年対比○%増、あるいは減」と言うように、経営数字は、
「何かと較べて、多い・少ない」と言うのが普通だと言うのです。

比較する数字が設定されていないと、
「今日までに1,000万円売れた」,と言ってもそれでいいのか悪いのか判りません。
「今年の販売目標1,100万円に対してよい、あるいは悪い」
「昨年実績980万円と較べて多い、あるいは少ない」
と言うように、何かと較べて、いいとか悪いとか判って、次の手を打つ。これが経営数字の意味であり目的なのです。


店主・熱田さんの今年の販売目標は3,000万円です。
月当たり平均目標は3,000万円÷12ヶ月=250万円ですが、8月はお盆や夏休みがあるので300万円の目標にしています。
昨年の8月の実績は280万円でした。

これを経営数字的に言いますと、
「販売目標は昨年の約7%増の300万円です」。

この「約7%増」という数字は、ご存じのように次の式から得られます。
昨年実績=280万円(A)
今年目標=300万円(B)
          今年目標―昨年実績 
今年の目標増減率(C)=―――――――――×100
              昨年実績
これを今回の数字で表しますと~。
           300万-280万      20万
 今年の目標増加率=―――――――――×100=――――――×100=7,14
             280万        280万

すなわち、今年の増加額は 280万円の7,14%の約20万円です。
結果、280万円+20万円=300万円が今年の販売目標となっているワケです。

ここで大事な事が2つあります。
1つ目は、売上高目標を昨年に較べ、何パーセント多く、(或いは少なく)設定するか、です。
景気や競争状態などをみて、手堅く設定することが大事なのです。

「計画やから、ともかく多い目にしておこう」ということではダメなのです。
経費だけ多い目に使ってしまう恐れがあります。
といって消極的はいけません。
強気に,堅実に決める。これが大事なのです。

2つ目が、家族経営であっても何年も目標達成出来ないときは、責任者を交代することです。
男女を問わず、老若も問わず人材を見つけてさせてみることです。
ダメなときは代えてみればいいのです。
ダメなままやっていては、本格的に店がダメになります。
店が生き延びるためには、体裁や屁理屈を言っておれないのです。

この決断が出来ないというのは、無謀操縦者に運転を任せているのと同じです。
店が生き延びるために、皆で厳しい生き残り策を講じてこそ、店は存続出来るのです。

■経営の数字は、現状の確認と将来の予測・展望に役立てること。
売上高ばかりでなく、役に立つ基本的な経営数字をまず6個。
これをやれば業績アップに繋がります。

衣料雑貨店主の木内さんは、税務申告に行ったとき、税務署の職員さんからこう言われました。
「木内さん、あなたは数字に強いですね。税金の申告は完全ですよ。もう少し勉強して活用すれば利益をもっと出せますよ」。
「沢山利益を出して、沢山税金を納めなさいよ」と言う意味にも聞こえましたが、素直に聞けば「あなたは経営の数字に強いですよ」と言われているのです。

気分を良くした木内さんは、計理士の本庄さんに頼みました。
「本庄さん、数字中心に、商いの計画の立て方を教えて下さい。今までは計画無しにやってきたものですから」
「ほう、えらいことを言い始めましたね。しかし、計画を立てると言う事は、実に大事な事なんですよ。」
「計画を立ててやる人と、立てずにやる人では、天地の差が出る、と経営では言うんです。木内さん、頑張りましょう。儲かったら少し分けて下さいよ」計理士は冗談を言いながら答えました。


本庄計理士はこう言いました。
「木内さん、計画を立て、数字を管理してゆくにはある程度、目標を絞って行かないと大変煩雑になります。先ず、手始めに目標を、5~6個にしましょうか」
「今までにお手伝いした小さな商店でうまくやって、利益を上手に出した店と同じ事をやりますか。実証済みですから、ええと思いますよ~」
そこで本庄計理士が提案したのは、次の6項目の管理です。

①販売目標の進捗管理=いま、計画を何パーセント達成しているか、を管理
②値入率の管理=800円で仕入れた商品に1、000円の売価を付けると20%の値入率で  す。値入率から値下げなどを引いたのが粗利益率になります。最近の衣料雑貨店経営では値入率は40%以上が必要です。
③在庫高の管理=在庫は売価で月商の1,5倍位に納まっていればまあ、在庫管理は合格。
④買上客数の管理=レジに上がった現金・ツケを含めた全ての買上客数を正しく把握。客数が減少するのは、商店経営にとって末期症状。破綻が近いと考えるべし。
⑤営業経費の管理=予算の範囲で納まっていることが基本。売上げ少なければ経費も少なく。
⑥大雑把な営業利益の管理=粗利益額と営業経費額を対比して損益の概算をいつも把握。

この6項目は基本中の基本です。
この「管理」というのは、計画を立て、実際の推移が、計画通りに行くように制御するのを「管理」といいます。
「管理」は数字を並べることではありません。計画数字通りに実績を達成させるように統制するのが「管理」です。
 経営の難しい今だからこそ、「管理」「計画通りの展開」が、重要なのです。
ともかく、「計画」→「実施」→「検討」→「改善」をやって見ることです。
これが出来る時、「あの店は経営管理がしっかりしている」と言うのです。


<シモナカ的用語解説>
【たかが店頭商品】=店頭商品、特価商品。多くは魅力ない商品が多い。「これぞ店頭商品」を期待します
 【スーパー「さいち」】=仙台市にある地元スーパー。一個100円のおはぎを平日には7~8千個、日曜には1万5千個売る有名な店
 【経営誌「Value creator」】=緒方知行氏が創刊した「バリュー・クリエーター」(価値創造者)という経営雑誌。流通業界の現象でなく本質を追究している本気の経営誌
 【「さいち」の専務・佐藤澄子さん】=「さいち」社長、佐藤啓一氏の奥様。主に総菜担当
 【客単価】=売上高を買上客数で割ったもの。客単価はスーパーによって異なるが2、000円前後が多い様子。

筆者 下中ノボル (しもなかのぼる) プロフィール


*「店・企業は客の為にあり」が生涯の経営信条。(「商業界」理念)
*規模の大小を問わず企業生き残りの条件は「時流適応」と「顧客創造」。
*商業者に具体的アドバイスをする中小企業診断士。
*経営誌「商業界」、「2020AIM」などに執筆、他に著書多冊。
*中小企業経営大学校や各地商工会議所などの講師や専門委員を務める。
*専門課題は時流適応の商店経営戦略、マーケティング戦略など。

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