第22回 商い上手はカネを借れ。知恵を借れ。元気を借れ。

商い上手はカネを借れ。知恵を借れ。元気を借れ。
~銀行は雨の降るとき傘を貸さないというワケを知って上手に付き合え~

■商店経営をしていれば、カネを借りなければやってゆけない時があります。
銀行の営業マンが、もみ手でカネを貸しに来たのは昔の話。
今は営業マンを減らしています。上手に借るにはそれなりのウデが要ります。

「なんでカネを借らんとあかんのや?」
オヤジさんが息子に問い詰めます。親子喧嘩ではありませんが、こんな緊迫したシーンはオタクにはありませんか?
商いをしていれば時々起こる事だと思いますが。

総菜店「すぎな屋」の今泉さん(45才)。
最近、大口客(業務用客)への売り掛けが増え過ぎて、カネが回らなくなり資金繰りのため、銀行に借り入れの相談をしました。
オヤジさんのもとで長年商いをしてきましたが、「店の経営」でなく、いわゆる「販売」担当をやっていましたので、収支バランスや資金繰りなど苦手なんです。

いつも来る銀行営業マンに「カネを借りたい」と言いましたら、「分かりました」と言いながら営業の渋田さんの返事は、いつも集金に来るときに較べると非常に悪いのです。
すなわち、「冷たい返事」でした。
 「で、いくらくらいご入用ですか?」
 「いつ、要りますか?」
当たり前の事を聞いているのですが、今泉さんの気分は最悪でした。

「いつか、会議所の講習会で小売店の借り入れ限度は月商の1倍~1,5倍くらいが安全です、と聞いたことがあるんですが…」
「ウチの月商は、ほぼ300万円ですから、300~400万円が安全ですかね?」。
今泉さんが聞きました。
銀行の渋田さんは、
「安全と言うことも大事ですが、オタクには今、いくら要る、ということが大事じゃないですか?」
「300万円も要りますか?」
と言うのです。

不愉快な応答の末、とりあえず200万円借りることにしました。
アホらしいと思いましたが、保証人と担保を要求されました。
実行にあたり、保証人はサラリーマンをしている弟に、担保は店舗を当てることにしました。

実は、今年の春まで70才の父親がカネのことは見てくれていたのですが、「もう齢やから」と手を引いてしまったので、今回が、今泉さんにとって初めての自己責任での借金だったのです。
「売掛金は増やしすぎたらアカンで」
「ウチの商売では、材料仕入れで、在庫過大にならん様にせんとアカン」
「沢山仕入れると、安く買えて儲かると思うかも知れんが、食いもん商売は回転が早い方が儲かるんや」
オヤジさんがいつも言っていた言葉が、自分で責任を持つようになって、改めて分かります。
「そうや、ほんまや。オヤジの言う通りや」
そう思いながら、素直になれない今泉さんです。

<借入の限度・目安>
会議所で習った借入の限度と目安表を、今泉さんはとりだして見ました。

▼「借入の安全度合い検討の仕方」がいろいろある中で、シロウトが簡単に活用できるのが「月商の何倍」という「月商の倍率判断」という方法。
*小売業では月商の1倍~1.5倍の借入なら、先ず安全、と言われています
・1倍~1,5倍……安全
・3倍 …………要注意
・6倍 …………危険

今泉さんが改めて思ったことは、「もっと経営上の数字に強くならんとあかんなあ」、ということでした。
また、「仕入れや販売は経営の一部であって、経営ではない」と言う事でもありました。

■「銀行員は背広を着たヤクザや」。「銀行が汚いんやない。その担当者が汚いか貧しいんじゃ」。
オヤジさんが語る銀行とのつきあい方は、含蓄のあるものでした。
誰に習ったというのじゃなく、オヤジさんが自分の経験で感じたものでした。

「いつも愛想笑いしているが、少し状況が悪くなると態度を変える。時にはえげつないこともする。脅すこともある。それが多くの銀行員の実態やで。そんな人間が特に貸付係に回されとるんや」。

「銀行員、全部がそうやと言わんが、多くの貸付係はそんな人間が多いと思とったらええ」。

今まで、銀行の悪口なんかこれっぽっちも言ったことのないオヤジが、この時は何かに取り憑かれたように言うのに息子は驚いていました。

「カネを借りるときは、特にうちみたいな零細企業は、まず、商工会議所や県、市の経営指導係に相談することや。あそこなら先ず、えげつないことは言わん。
公的な立場で低金利、有利な貸し付け条件のカネ、制度資金というか、それを勧めてくれる。頼めば経営診断もして借入限度や返済法も教えてくれる」

「中には、不親切というか、無能な職員もいるさかい、それは見抜かんとあかん。しかし、殆どの職員は問題は無い」

「銀行でも、役所でも厳しいコトを言う人がおる。何でそう言うのか。規則もあるやろうが、基本は担当者がアホか、自分の事しか考えていないからや」

「難しいことを言う人は、自分が分からんからアホな事を言うんや。出来る人は難しいことを易しく言うモンや」

「また、難しいことを言う人は、規則や制度が気になって居る人や。問題がおきると自分が責任をとらんとアカン様になるから、それを回避しようとしているんや」。

「依頼者のことより、自分の人生にマイナスになりそうことは、責任回避をしておこうと。というせこい発想の人間も居るということ」。

「まあ、この仕事で自分の人生展開が不利になりそうなことは避けておこうという考えは分からないでもないが~。そう言う担当者も居る、ということを知って交渉したり、依頼をすればうまく行く」


オヤジさんの話は尽きないが、要はこうや。
「金融機関や役所が厳しいという事もあるが、おおくは担当者次第。担当者が無力だと自分の責任を回避するためにガードを堅く、高くする事がある。
出来るだけ、公的資金を借るように。
そして、担当者の人物、能力、器の大きさ、を見抜け。
これを知っていれば、先ず、うまく行く」

■掛売りで売上げを増やしても、売上げが増えたことにはならない。
それは、カネが入ってこそ売上げで、掛売り発生だけでは「見込み売上げ」にすぎない、ということ。
最近、カネが入ってこないこと、いわゆる「貸し倒れ」が多くなっているので要注意!

話を最初の総菜店「すぎな屋」今泉さんにもどすと~。
かつて景気が良かった頃は、売掛金が貸し倒れになることなんか、先ずありませんでした。
ところが、最近は掛け売りが増え、それが貸し倒れになることが多いのです。

「掛け売りでもいいから、売上げを増やさないと」という「売上げ第一主義」でいた今泉さんは、1~2回来店し、「沢山買ってくれるお客」に掛け売りをしていました。
現金売りと掛け売りが同額くらいの月が、ここ2ヶ月ほど続きました。その結果、たちまち、カネが回らなくなったのです。

催促すると
「次回、払いますわ!」といいますが、次の来店が無いのです。
電話で催促すれば、適当にあしらわれて終わりです。

「この頃は、景気が悪いさかい気をつけなあかんで~」
オヤジさんが言います。
「わかっとるよ!子供じゃあるまいし~」
息子は、この言い方は良くないな、と思いながらも、口から出る言葉はけんか腰です。

「スーパーやコンビニに負けないで売上げを増やす方法」を、と今泉さんは考えますが、そう簡単に妙案がありません。
それどころか、スーパーやコンビニが配達サービスをやり始めて、お総菜屋の強力なライバルになっているのです。

隣町の同業の知人・倉田さんに電話で「どうしている?知恵を貸してよ!」と頼んで見ました。
本当は知恵よりも元気を借りたかったのですが。

倉田さんは、「ウチも困っとるよ。でも……」と言いながら、親切に幾つか教えてくれました。
要点は次の様なことでした。

①掛け売りはしないようにした。掛け売りをすると質の良くないお客が増えて、そう言うお客の売上げ比率が高くなり経営が不安定になりそうになった。
売上げが増えて心配も増える、というのは異常だと考えたんや。
②次は、ある講習会で習ったんやが~。
a:限られた地域のお客様相手の商売やから、できるだけ客層を広げた。客層を絞り込めと言うのは、お客様の多いところの話や。(今泉さんの今までと真逆の発想)
b:お客様のいろんな購買動機のうち、ウチで対応できそうなものは全部、対応する方針にした。(メニュー、配達サービスなど)
c:配達など、何とか対応が出来そうなお客様の要望には、出来る限り対応するようにした。
d:市場性、購買力というもんは、<間口×奥行き>や、と考えたんや。
間口とは、客層のことで、奥行きとは購買理由、購買動機と単純割り切り。
③具体的な例で言うと~。
a:間口(客層)を広げるために、高齢者向きのおかずを作って、口コミで「健康にええらしい」と広がるように試供品を配った。
b:若いお客を増やすために、仲間同士のパーティー用のお総菜セットをサービス価格で売るべく、見込み客へ、手配りのチラシを撒いた。これは速効性があったね。
c:奥行きを広げるために、いくつか利用動機を考えた弁当を売り出した。
例えば、変なランチ?の売り出しです。

・ 食欲の湧かない朝食用に「これはうまい!モーニング・ランチ?」
・ 夜働く人や高齢者用に「健康!夕食ランチ?」
これは確実にプラスアルファの売上げ効果があった様です。
まあ、あれやこれや、いろいろやって何とか前年比売上げはプラスになってるかなぁ

この様に、今泉さんは、倉田さんから、知恵も元気も借れたようでした。


<シモナカ的用語解説>
【たかが店頭商品】=店頭商品、特価商品。多くは魅力ない商品が多い。「これぞ店頭商品」を期待します
 【「店の経営」でなく、いわゆる「販売」担当】=経営は人事から店の収支、全てをみてバランスをとるのが仕事。販売は如何にして売上げを伸ばすか、が仕事です
 【回転が早い方が儲かる】=食べ物商売は回転が早くないと鮮度を失いお客様の信用、人気を無くします
 【月商の倍率判断】=適正な借入限度の把握法はいくつかありますがシロウトに分かり易いのが月商の倍率判断法です。借入は月商の1倍~1,5倍なら安全、3倍は要注意、6倍は危険、と言うのが一般的な見方です
 【商工会議所や県、市の経営指導係】=経営相談所、金融相談係など名称はいろいろ。借入について詳しく教えてくれます
 【売上げ第一主義】=普通の経営では「売上げさえあれば何とかなる」で通用します。しかし、今は売上げがあっても利益が出ない事があります。売上げと利益の両方を見ることが大事な時代になっています
 【市場性、購買力というもんは、<間口×奥行き>】=高齢者も若い人も、と客層を広げる間口拡充。日々の弁当から法事の出前までする奥行き深化。これが大事な時代です。
 【客層を絞り込めと言うのは、お客様の多いところの話】=前項と同じ事ですが、客数の少ない地域での商いでは、客層を限定しては苦戦を強いられます。客層を絞り込む、という理論はありますが、田舎のカフェ経営に例をとれば、サービス低下をしないという条件なら、純喫茶より軽食なども出す食堂兼業の経営の方が成り立ちやすい、というのが現状です。牛丼屋に例をとれば、何でもある?すき家の方がお客には便利、というワケです

筆者 下中ノボル (しもなかのぼる) プロフィール


*「店・企業は客の為にあり」が生涯の経営信条。(「商業界」理念)
*規模の大小を問わず企業生き残りの条件は「時流適応」と「顧客創造」。
*商業者に具体的アドバイスをする中小企業診断士。
*経営誌「商業界」、「2020AIM」などに執筆、他に著書多冊。
*中小企業経営大学校や各地商工会議所などの講師や専門委員を務める。
*専門課題は時流適応の商店経営戦略、マーケティング戦略など。

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