第21回 今のままでは勝ち目がありませんで、オヤジ!

今のままでは勝ち目がありませんで、オヤジ!


~小さな八百屋がスーパーと戦っている例あり。あなたも頑張って!~

■商いの仕方にはいろいろあります。老舗スーパーが新興のスーパーに負けることもあります。盆栽的な手の込んだ経営の食品店が大雑把な経営の八百屋に負けることもあります。

 いつも感動し「そうや!」と思いながら心に引っかかるテーマがあります。
それは「差別化」というテーマです。

親切で優しい応対サービスの老舗。店内に綺麗な花が生けてある店。店頭ディスプレーの良い店。
見た目にどう見ても素晴らしい店の方が繁盛する……と誰もが思います。
ところが必ずしもそうでないことが起きるのが昨今の商いの不思議さです。
すなわち、「見た目には、良いと思えない店」にお客様の人気があり、見た目に「これは素晴らしい店や!」と思った店がさっぱりあかん、という事に出会う不思議さなのです。

「それは、あんたに見る目がない、というこっちゃ!」と言う人も居ます。
ある人は、「それは差別化が出来ているかどうかの問題や」といいます。
ある人は、「商いの経営には、戦略と戦術があり、戦略がマズければ先ず、負ける」といいます。

「戦略と戦術」……。この違いについていつか、ここで申しあげたと思います。
そこで、その大事さを教えて戴いた有名な先生の話をご紹介します。

川崎進一先生。今は故人ですが東洋大学の名誉教授で経営誌「商業界」やNHK教育テレビで活躍しておられた素晴らしい先生です。
小売業の理論と実務と精神面の指導者でした。ある時、こう言われたのです。

「いくら上手な経営戦術でも経営戦略には勝てません。最近、嫌と言うほど実感しました。シモナカさんもこのことを、よく知っておくといいと思いますよ!」。

当時、ある有名専門店チェーンが新興チェーンに負け、吸収合併されたことが、マスコミで話題を呼んでいた頃の話です。
川崎先生は職業上、両社と関わりがあった様でその戦いの実際を見て言われたようでした。

「老舗スーパーは、見た目には品揃えも応対サービスも最高でした。店内外の写真を何枚も撮ったくらい素晴らしい店でした。しかし、商いは見た目だけでは勝てないのですね。今どきのお客様はあちこちの店を見て歩き、“いいとこ取り”をして買う店を決めるのです」。
「いくら歴史のある高級スーパーと言っても、今のお客様は、“のれん”に余り価値を見ていなくて、普通に“鮮度と価格”で判断しています。のれんは大事ですが過大評価しますと失敗しますよ」。
「結局、仕入れ体制、仕入れ量が鮮度と価格に大きく影響しますから、いくらのれんを誇っても、こうした点で遅れていてはお客様は離れ、ヨソに行ってしまいます」。
「“のれんのあるスーパーで買っている”ということに、価値があった時代もありました。その店の“のれん”にブランド価値があったのですね。それは、今は過去の事になってしまったようです。老舗経営は難しい時代になっていますよ」。

 川崎先生は負けた老舗スーパーへの思い入れがあったようでした。
「非常に残念~。だがこれが現実。失礼な表現ですが、これが経営の面白いところ、厳しいところですね」、と話されました。
 歴史が古いからよい、のれんが古いからダメ、という事でなく、その時代、時代に合った経営が必要と言う事なんですね。

 「経営戦略とは、時流適応であり、環境対応である」、とよく言われます。偉大な経営者・松下幸之助さんの名言があります。
「雨の日には傘を!」
これが経営戦略の基本中の基本なのですね。
雨降りに不満も愚痴も通用しません。不況も同じですね。現実を受け入れて、そこでベストな対応策、共存策、有効策を考えることこそ、松下さんが“よし”とされる経営なのです。
現実社会では「雨降り」でビジネスをしている人も沢山居るのですから……。

■地方都市のショッピングセンターの館内で大手スーパーのそばにある八百屋。なぜかお客様が多い。競争相手との差別化が上手なのです。今は生活スタイルに合わせた商いが有効な時代なのです。

 地方の郊外型ショッピングセンターの中で、大手地方スーパーに隣接している約40坪くらいの八百屋です。
「私は3代目の○○八百屋」と言う店名で商いをしています。

これが結構繁盛しているのです。
価格帯は殆どスーパーと同じですが、この八百屋しか扱わないような、こだわり商品があり、これは少し高価な様ですが売れています。
この八百屋の特徴を幾つか上げてみます。


①こだわり商品は高価でも説明付だからファン客が居る
トマトでも里芋でも、こだわり商品は多少高価ですが、八百屋では高いワケを聞くと店の人が丁寧に教えてくれます。
スーパーでは高価な、いい商品があっても、そのワケを教える人が居ないことが多いです。居てもパートさんで説明してくれないのが普通です。
すなわち、スーパーはこだわり商品を売る体制が出来ていないのです。これでは、「八百屋の勝ち」になります。

②小家族に対応し、小パック、バラ売りを多用
 キュウリでもトマトでも、スーパーではかなり多い量のパックで売っています。
「トマトなんて、中くらいのサイズを2~3個買っておき、いつも新鮮なのを食べたいのに、スーパーは安いけれど、量が多いから、残念ながら半分くらい捨ててしまっています」。
 その点、「この八百屋はばら売りが多いから、1個、1本から買えます。値段も普通だから買いやすい」、と言うお客様が多いです。アジア系の外国人客に聞きましたら、やはり1個、1本から買えることが理由でした。

③売り方の楽しさ、ミニイベント、パフォーマンスで売る
 スーパーではバーゲンや早朝サービスなどインパクトのある売り方をします。八百屋も何らかの刺激策を講じなければ売れない昨今です。
この八百屋が多用しているのは、スーパーと同じセールでも、スーパーと違ってお客が殺気立たず、穏やかな雰囲気の中で行うセールです。
「詰め放題、袋詰めセール」
「お一人様○個限定セール」
などです。

――袋詰めは「すぐり菜」や「キュウリ」「ジャガイモ」などを、ビニール袋に詰め放題で○○円。
――お一人様○個限定セールは、例えば「コーラ1,5リットルボトル、1家族様1本限定で○○円。先着200人様まで」、と赤字を覚悟した魅力的なセールです。
それぞれ1本ごとに30~50円の値引きになり、セール中の値引き合計は1~2万円になります。
しかし、トータルすればそれを上回る集客、売上げが出来る様です。
効果の分からないチラシに較べれば明確な効果が読めるセールスプロモーションです。

④産地、生産者アピール販売
 これはスーパーも最近、やっていますが、本気度が薄いです。
八百屋は生産者と顔なじみです。
――作り手の思い、心意気をお客様に伝えたい!と八百屋は考えています。
例えば、夏場のトマト、キュウリなど害虫に根っこを噛み切られやすく、栽培者には厳しいコトが多い様です。
他に鳥の被害もあるようで、涙なくして?語れないドラマやストーリーがあるのです。
これを語れるのは地域の八百屋さんならでは、です。

⑤高級品を売るばかりの差別化は今の時代には合いません。今は生活スタイル、ライフスタイル別に売るのが上手な売り方、差別化です。
 価格で階層を作り、高級品や格安品を買わせる差別化があります。
しかし、いまは上下に二分化し、それぞれの価格帯でお客様は生活しています。
 郊外型ショッピングセンターの中の八百屋さんでは、安い方で品揃えしなければショッピングセンターの客層にあいません。
価格的にはスーパーと同じゾーンで商いをするほかありません。同じ価格帯で同じ売り方をしていても勝ち目はありません。
 そこで売り方の差別化が必要になるのです。
スーパーがやらない売り方、八百屋さんならではのり方が重要なのです。
それが「少量売り」「バラ売り」「ミニイベント売り」です。

⑥「個」客対応、「あなただけ対応」という差別化
お客様の名前を覚えて、「○○さん」と何度も呼びかける。
「毎度有り難うございます」の「まいど」に心を込め、力をいれる。
「これはサービスです!」と他のお客様の居ないときには、ささやかなサンプル・プレゼントする。
この様に、人の心を掴まえるのが商いの原点です。
商いは「販売業」でなく「人間業」です。
商いは「商業」でなく「情業」です。
これが差別化の極みです。

■アメリカで何度も見たスーパーの破綻。自然食品を売るスーパーマーケット「ホールフーズ」や「トレーダージョー」。いろんな差別化で生き残っています。

 アメリカのスーパーマーケットやいろいろな業態の見学に行きましたが、何度も驚いたこと、それは、「この店はいいなあ!」と感嘆して見学した店が、翌年行きますとすでに廃業していたり、身売りしていたことです。
何回もそう言う経験をして、やっと分かった事がありました。
「いくら売れていても、見た目が良くても、経費の掛かり過ぎる店は儲からないからアカン」という当たり前のことでした。
「売れることは売れるが、人件費が掛かりすぎて儲からないからダメ」
「生産性、収益性が低いからあかん」
こういう事だったのです。
これは当たり前ですね。

もう一つ別の差別化の経験。
スーパーマーケットの競争が激しいアメリカでは、早くから差別化が行われていました。

「ホールフーズ・スーパーマーケット」。
これは高級スーパーマーケットあるいはグルメ・スーパーマーケットと言われています。
世界でもっとも有名な自然食品専門店でもあります。基本は自然食品で差別化を図るスーパーマーケットです。

「トレーダージョー」という、もう一つのスーパーマーケット。
これは「グルメ・フード」、「オーガニック・フード」、「ベジタリアン・フード」などを扱っています。
男のお客が自分のために買うのか、男客の多い、「グルメ・スーパーマーケット」です。平日の夕方はサラリーマン風のお客が多いです。
 価格はそんなに高くありません。生産者直仕入れとかで高くならないようになっているようです。
高級スーパーという見方もあるようですが、日本の高級スーパーに較べれば、普通の価格だと思います。

 日本の差別化には「高所得者狙い」という差別化がいつも顔を見せます。
田舎の、あるいはマチのスーパーや八百屋さんには、大衆狙いというステージで商いをして欲しいですね。
そこで差別化商売をして消費者の暮らしを守るスーパー、八百屋になって欲しいと思います。


<シモナカ的用語解説>
【たかが店頭商品】=店頭商品、特価商品。多くは魅力ない商品が多い。「これぞ店頭商品」を期待します
 【差別化】=ヨソとの違いを持つこと、あるいは出すこと
 【雨の日には傘を】=松下幸之助さんの有名な経営哲学、雨が降ったら素直に傘を差しなさい。また傘を売ることを考えるもよし、という発想
 【それぞれの価格帯でお客様は生活】=今は二分化している、と言われます。当然、普通の商人やサラリーマンは普通の生活しか出来ません。それぞれの所得に合わせて人々は生活します
 【「個」客対応】=固まりとしてのお客様でなく、何々様という「個のお客」を大事にする経営
 【生産性、収益性】=投資に対する利益率、使っている資本に対する利益率など。また、従業員一人当たりの売上げや利益なども生産性の尺度です
 【自然食品専門店】=日本の健康食品店と大きく違います。無農薬など、余分のモノを加えたり、引いたりしていない安全な食品を売っている、スーパーや専門店のこと
 【大衆狙いというステージ】=商いは常に大衆に支持されるやり方がいいと思います。特定のお客にのみ支持される商いより市場は大きく、世の中に対する貢献度は大きいです

筆者 下中ノボル (しもなかのぼる) プロフィール


*「店・企業は客の為にあり」が生涯の経営信条。(「商業界」理念)
*規模の大小を問わず企業生き残りの条件は「時流適応」と「顧客創造」。
*商業者に具体的アドバイスをする中小企業診断士。
*経営誌「商業界」、「2020AIM」などに執筆、他に著書多冊。
*中小企業経営大学校や各地商工会議所などの講師や専門委員を務める。
*専門課題は時流適応の商店経営戦略、マーケティング戦略など。

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