第19回 「お客様が来ないから売れない」。そうかな?

「お客様が来ないから売れない」。そうかな?


~商いには営業戦略と営業戦術がある。それぞれの活かし方で売れ!~

■あの店がよく売れているのに。店が近くなのに、なぜ、この店は売れないのかなぁ?
売り手ばかりか買い手のお客もそう思っているのです。

関西の人口4万人のこの町の中心、JR駅前で長年、食料品店を営んできた大野さんは不満です。売上げがだんだん下がってくるからです。
「郊外のスーパーのせいや、と皆が言いいますが、本当にそうかなぁ。毎日、うちの前をお客が沢山通るのに、なぜ、ウチで買ってくれないんやろ?」
「そりゃ、お父さん仕方ないわ。お客様が店に入って来ないんやから」。

奥さんがそう言います。
「そう言えばそうかも知れないが、ヨソではどうやろうか?」、と店主・大野さんは何年ぶりかで“やる気”を出しました。

このマチのJR駅前より遙かに通行客の多い、隣マチのJR駅前を見に行ったのです。
「なるほど、お客がよく入る店と入らない店の差は大きいなぁ。お客がよく入る店は、お客がためらわずに入る~。店頭のサービス品や特価商品に釣られてお客が入るのかな。しかし、隣のあまりお客が入らない店は、店頭の特価品をつかんでお客が店内に入っている。どういう事や?」

疑問に思った大野さんは、このマチの知人・ファッション店主・金井さんに聞いてみました。
彼は即座に、こう教えてくれました。
「あの繁盛している“フードショップSEN”さんも、確か、10年前までは苦戦していました。しかし、どこかの勉強会で習ってきたと言うて、店頭に本当にお値打ちなサービス品を出したり、美味しい商品を出したのです。同業者があんなサービス品を出してソロバンが合うのかな、と言ったくらいです。そうしている中にお客さんの信用がつき、お客さんが店頭の商品を見ずにストレートに店内に入る様になり、繁盛し始めたのです。いま、あの店の店頭商品は信用を維持するために出しているんやないか、とわれわれは見ています」。

「たかが店頭商品」と思っていた大野さんは、大いに反省しました。
「特価品を並べておけばいい、安ければいい」、と簡単に考えていましたが、そうじゃなかったのですね。

「同業者が、“あんなお値打ちな商品を、あの価格、あの売り方で売ってソロバンが合うのか”、と思うくらいでなければお客の信用が得られない」と言うことを大野さんは、今回、学んだのです。

今回の視察?で適切な説明をしてくれた金井さんが分かれ際に言った言葉を、大野さんは思い出していました。
「勉強会に行って、知っただけではあかん。実行してこそナンボや!と我々は思っています。見習わな、あかんと~」。

■「たかが店頭商品」。その商品がもたらす功罪。店頭は店の頭やなく顔や。
そこに真実を並べるか、ウソを並べるか。結果は決まっています。

いうまでもなく、「たかが~」とは「どのくらいか、程度は知れている」という意味です。
店頭に何を陳列するか、どうってことはない、と思っていた大野さんは、店頭商品が店の信用や人気に大きく関わると再認識して、いま、真剣に考え直しています。

ところで~。「経営戦略とか経営戦術」という言葉があります。
これに対し、「営業戦略、営業戦術」と言う言葉もあります。
「戦略と戦術の違い」。知っているようで知らない言葉です。

戦争でいえば、「戦略」というのは、“大局的”に見て戦いを勝利に導く手段をさし、「戦術」は、“個々の戦い”での戦闘を有利にする為の方策を言います。
商いでいえば、戦略とは「何を、どう売るか」という基本方針で主に経営者が行います。
一方、戦術は「どう売るか、どう応対するか、どんな言葉づかいをするか」という現場的なことで、主に従業員、販売員が行います。

更に、具体的にいいますと、例えば、店頭空間をどう商いに活かすか、を決めることが「戦略」で、何をいくらで売るか、陳列やPOPをどうするか、が「戦術」です。
「鮮度の高い商品をお値打ちに売る」と言う場合、それだけを目的に売りますと、それは「戦術的」販売です。

目先の売上げや損得の先にある、店として最重要なイメージ構築のための鮮度、お値打ち、誠実さ創出は「戦略的」販売となります。
これを“フードショップSEN”はやっていたのですね。

店頭は店の顔なのです。
そこで、目先の損得よりも長い目でみて、我が店の理念、お客様への誠実さをアピールし続けた“フードショップSEN”は勉強会で習ってきたことを見事に活かしたのです。

「たかが店頭」「たかが店頭商品」と多くの商業者もお客も思っているのじゃないでしょうか。
例えば、繁盛している飲食店のオヤジさんが、食材産地や料理の盛りつけにこだわるのは、百年の料理修行も「たかが産地、たかが盛りつけ」と粗末にすることで、一瞬にしてダメになることを知っているからです。

よく見れば、わが店頭の「ホコリのかかったバナナ」「破れたままの殴り書きのプライスカード」「安くもない特別価格」など、我が店のダメさを店頭でお客にアピールしているのです。
これでお客が我が店を見向きもしない、入ってこない。それは当然ですよね。(残念!)

この文を書きながら、私の反省です~。
ヨソ様に出す書類の綴りに、創業当時は色違いの用紙など1枚、表紙として余分に付けていました。
いつの間にか、表紙なしになっていました。
「表紙なんか無くても、これでいいんじゃないですか!」。
色違い用紙一枚のために、コピー作業が煩雑になるのを嫌う事務スタッフの気迫に押され、それを容認していました。
思い起こせば、「たかが報告書」、「たかが表紙」ですが、これが我が事務所の顔なんです。
その書類をキチンと見て戴くために、書類に権威を持たすために、もっと真剣に誠実に仕事に当たるべきである、と思い直した次第です。

■「お客が入ってくれば売れるのに、入って来ないから売れないんや!」
では、誰がお客様を呼ぶのですか?だれが遠ざけるのですか?

「そりゃ、お父さん仕方ないわ。お客様が店に入って来ないんやから」。
冒頭の大野・奥さんの言葉ですが、あちこちでよく聞く言葉です。
「お客さんが来ないので売れないのです~」
ショッピングセンターのテナント店の店舗診断で何度も聞きました。
「お客さんが来ないから売れない」。
そうやろうか?

失礼ですが、次の様に聞いてみたいです。
例えば、あなたがモテないのはなぜですか?
モテないから魅力を無くしているのですか?
魅力が無いからモテないんじゃ無いですか?(失礼!こういう事です)

同じショッピングセンターの中でも、よく売っている店とそうでない店があります。
売れていない店のスタッフが「お客が来ないから売れない」と説明するのです。

もっと説明しますと、例えが悪くて済みませんが、「エサを食ってくれれば釣るのに食わないから釣れないんです」、と聞こえました。
これじゃお客様は、たまりませんね。
針に掛かれば釣ってみせる、というのですから。

専門家は、「買物客」を大別して、次の様に分析しています。
① 以前の買い物で満足し、リピート的に買う目的をもって、その店にやってきたお客。常連客、お得意様。
② 口コミ、広告宣伝、店頭広告などを見てやってきたお客。
③ その店の陳列や演出、雰囲気につられて売り場に入り、買ったお客。
④ 販売員の店頭での呼びかけに興味を持ち、対話して買ったお客。
⑤ その店の固有客でなく、ショッピングセンターのファンで、気に入った商品があり買ってくれたお客、など。

ともかく、「お客が来ないから売れない」は、売らない販売員の自己都合の言い訳ですね。
元々は、「お客のいるところに行く」のが商いの基本ですが、今の小売店は「お客が来るようにする」のが仕事です。

インターネット通販などは、売り手がお客に近づいた、今から、そして今後の売り方です。
広告宣伝、DM、電話、口コミ、看板、店頭アピール、店頭陳列、などなど、色んな手立てで、お客様に来て戴くように努めるのが現代の「販売」です。
「来れば売る」は失礼ですね。どこかの電力会社の言い分と似ていますね。
欲しいというなら売ってやる~。ひがみでしょうか。


<”わが店頭はわが顔“。三つの誓い>
*たかが店頭でなく、店頭こそ「わが店の顔」。「わが志」や「わが誠実さ」をお示しする場所です。
*店頭にこそ、あなたのお役に立つ商品を、お値打ち価格で揃えています。
*店頭に立つ販売員は、あなたの立場に立って、自分ならこうして欲しいと思うことを実現するよう、誠実に応対します。


<シモナカ的用語解説>
【たかが店頭商品】=店頭商品、特価商品。多くは魅力ない商品が多い。「これぞ店頭商品」を期待します
 【真実を並べるか、ウソを並べるか】=時々見かける「赤字価格」というウソ。この商品限りというウソ。売りたい気持ちは分かりますがあなたの信用をもっと大事にしましょう
 【戦略と戦術の違い】=戦争で、どんな武器を使い、何台配置するか、などを決めるのが「戦略」。いつ、どう撃つか、は「戦術」。
 【食材産地や料理の盛りつけにこだわる】=職人は損得よりも自分の信用を賭ける。費用対効果を考えるのは営業感覚。この値段なら、この程度の味でもよい、は職人のこだわり感覚にはあり得ない。

筆者 下中ノボル (しもなかのぼる) プロフィール


*「店・企業は客の為にあり」が生涯の経営信条。(「商業界」理念)
*規模の大小を問わず企業生き残りの条件は「時流適応」と「顧客創造」。
*商業者に具体的アドバイスをする中小企業診断士。
*経営誌「商業界」、「2020AIM」などに執筆、他に著書多冊。
*中小企業経営大学校や各地商工会議所などの講師や専門委員を務める。
*専門課題は時流適応の商店経営戦略、マーケティング戦略など。

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